読書記録:生き物の死にざま
「最近、『生き物の死にざま』って本を読んでるんですよ」
そう話すと、大抵の同僚が大笑いするかわたしの精神状態を心配してくるのだけれど、とても面白い本だったので記録として残しておきたい。
最近は哲学の本や文章の書き方の本を読んでいるのだけれど、この生き物の死にざまはとても良かった。ちょっと泣けたし、考えさせられたし、生き物についての知識がちょっと増えた。
なんでわたしがこの本を手に取ろうかと思ったかというと、去年に前の会社の同僚と集まったときに、一人の後輩が転職した先が出版社で、この本を担当した、という話を聞いたからだった。その時に聞いたサケの死にざまの話がとてもおもしろくて(その女の子の話し方自体がとてもおもしろいというのもあるけれど)、興味を持ったのがきっかけだった。
生き物は、なぜ生きるのか
哲学の本を読んでいると、人はなぜ生きるのか、を考えさせられるときがある。この生き物の死にざまもそうで、生き物がどのように死ぬのか、その死にざまを通して、なぜ生きるのか、どのように生きたいのかを考えさせられる内容になっていた。
ただ理路整然と昆虫や動物・魚類の死にざまが説明されている小難しい本というわけではなく、少しストーリーっぽく、著者が語り手となって話しかけてくれるような形式なので、難しい文章が苦手なひとでもとても読みやすい。
ということで、いくつか軽くどのようなお話が載っているのか、要約を届けてみようと思う。
ハサミムシ
この生き物の死にざまには、よく知られているような生き物から、聞いたことのない名前の生き物まで、29の生き物が取り上げられている。そのまさに後者、わたしは全く名前を聞いたことのなかった虫、ハサミムシのお話。
子育てをすることは、子どもを守ることのできる強い生き物だけに与えられた特権である。
『生き物の死にざま』稲垣栄洋
わたしたち人間にとって子育ては欠かせない。なぜなら哺乳類は、基本的にお母さんのおっぱいで育つから。でも虫の場合は違う。天敵に襲われたとき、メスは天敵から自分を守る術がない場合はタマゴもろとも食べられてしまう可能性が高いので、子育てをせず産みっぱなしにする。自分が襲われて次のタマゴを産めなくなるリスクを取ることができないからだ。
だから、虫の世界では、子育てはおしりに立派なハサミがあるハサミムシのように、自分と子どもを守ることのできる強い生き物だけが行う。そしてこのハサミムシは、飲まず食わずでタマゴを守り、子どもが孵るときにはすでに力も絶え絶え、最後は子どもたちに自らの身体を食べさせて一生を終えるそうだ。
なんて哀しい最期なんだろう、と思ったけれど、虫は結局子孫を残すためだけに生きているのだから、合理的なのかもしれない。ただ、子育ては強い虫しかできないということも、最期まで守ったあとに子どもに食べられてしまうことも、衝撃だった。自分の身体を食べさせる虫がいることは知っていたけれど。
シロアリの女王アリ
アリは真社会性生物と呼ばれる生き物で、女王アリは一日に数百個のタマゴを産み、働きアリが食べ物を取ってきたり家を作ったりして、兵隊アリが外敵と戦う。そんな風にうまく生まれたときから役割分担がされている。
シロアリは、家の腐った木を食べて巣を作るのだけれど、食べるものがなくなれば他の木に移動する。そのとき、もし女王アリのタマゴを産む能力が衰えていたら、女王アリは今いる巣に置いてけぼりにされてしまい、控えていた副女王アリが新しい巣で女王アリになるそうだ。女王アリは一人では移動することができないから、見捨てられればそれで終わり。一人寂しく孤独に死んでいく。
生き物の死にざま
このようなお話が29ほど読めるので、興味が湧いたひとはぜひ読んでみてほしい。サクッと読めるし、考えさせられつつ、なんかちょっと泣けて良かった。今のところ今年で一番良かった本かもしれない。